そこにあったのは──鈍く光る銀色の物体、だった。
誓さんが手際よく土をはらっていくと、四隅が見えてきた。
大きさはA4サイズほど。
弥代衣都
まだ下にも埋まっているみたいですし、
箱? ということでいいんでしょうか
誓さんの指先が、8桁の数字をなぞっていく。
黒いマジックペンで走り書きされたそれは、
去年の日付だった。
隠岐谷 誓
おや。思っていたより、最近のものでしたか
隠岐谷 誓
おおよそは。状況証拠からの推測に過ぎませんが
隠岐谷 誓
住宅街近くの樹の下に埋められていた箱……。
大きさからして、クッキーや煎餅などの詰め合わせに
用いられるスチール缶でしょう
隠岐谷 誓
そして蓋には去年の日付が書かれている。
筆跡から察するに、子どもの手によるものだと思われます
周囲を見回すと、
程なくして目当てのものが見つかった。
雨風にさらされて読みづらいけれど、
「記念」「こども会」という文字列が確認できた。
隠岐谷 誓
本来は目印になるよう、箱を埋めた場所の近くに
挿さっていたのでしょう
隠岐谷 誓
公園の名前が入っているところを見ると、
しっかり公認の上で埋められたもののようですね
隠岐谷 誓
このままでは誰かがつまずく原因にもなるでしょうし、
もう少ししっかり埋めてあげましょうか
管理部ハウスの庭のお手入れ用に使っているという
シャベルを借りて、私たちはタイムカプセルを埋め直した。
隠岐谷 誓
思ったより手が汚れてしまいましたね。
お帰りになる前にもう一度、
ハウスに立ち寄っていかれませんか
隠岐谷 誓
誰かの思い出のために泥にまみれることも、
それはそれで美しいものだと思いまして
舞い散る桜を見上げ、誓さんがささやく。
その横顔を眺めながら、
私は聞きそびれていた質問を口にする。
弥代衣都
そういえばさっき何か言いかけていましたよね。
『弥代さんだったら』と
隠岐谷 誓
ただ貴方だったら、桜の樹の下には何が埋まっていると
書き記しただろうかと思いまして
弥代衣都
桜の樹の下には誰かの思い出が埋まっている、でしょうか。
……なんの捻りもなくて、お恥ずかしいんですが
たとえば美味しいもの、誰かの美しい思い出。
(通常, mob)
そんな素敵なものを共有した私たちは、
季節外れに咲き誇る桜を網膜に焼きつけた。