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グラス越しに映る夏

本番前の練習ということで、
スイカはギャラリーから少し離れた場所に設置した。
言いながら、誓さんはサングラスのつるを軽く持ち上げる。
隠岐谷 誓
実はこれ、特注品でして。
この炎天下でも視界は真っ暗になります
ひっかかりを覚えたものの、よどみなく続く誓さんの説明は
聞けば聞くほど妙な説得力を感じる。

隠岐谷 誓
──といった具合です。実にいい出会いでした
恩田さんは誓さんの話に特に言及することなく、
いつものように淡々とうなずいてみせた。
にこやかな返事とともに、誓さんがスイカから距離をとる。
さっそく練習を始めるらしい。
恩田 灯世
怪我の心配をしているなら杞憂だろう。
隠岐谷は定期的に身体を動かしているはずだ
恩田 灯世
ああ。さきほどのストレッチの様子を見ても明らかだ
恩田さんの“観察眼”にさすがだなと思っていると。
誓さんが3回まわり、危なげない様子で片足跳びを始める。
テンポよく、しかも一直線にスイカを目指す誓さんには、
進行方向をアシストするような余地すらなかった。
スイカまであと一歩、というところで誓さんが立ち止まる。
そして棒を振り上げ──

隠岐谷 誓
おや。不正については見逃していただける、と?
恩田 灯世
手段はどうあれ、目的は達成した。
ならば問題ないだろう
弥代衣都
……サングラスが特注品だっていう話は、
やっぱり冗談だったんですね?
思わず口を挟んでしまった私に、誓さんが悪戯っぽく笑う。
隠岐谷 誓
ふふ。確かに特注品ではあるんですが……
視界が完全に真っ暗では危ないですからね
自分でも不思議なことに、嫌な気持ちになるどころか、
むしろスッキリした感覚まであった。
悪気が感じられないからか、話術が鮮やかすぎるからか。
きっと、その両方なんだろうなと思う。
隠岐谷 誓
さすがに恩田くんにはお見通しだったようですが
恩田 灯世
見えている人間と、そうでない人間では動きに差が出る
隠岐谷 誓
“サングラスだから見えているはず”ではなく、
私の動きから看破されるとは……脱帽です
恩田 灯世
お前の片足跳びも見事だった。
きちんと体幹を鍛えていることが窺える
隠岐谷 誓
恐縮です。定期的にジムで身体を動かしてはいますが……
恩田くんに褒められると、少々気恥ずかしくなりますね
隠岐谷 誓
私はこういった“手段”でも用いなければ、
君のように見えないものを見る力はありませんから
誓さんが、サングラスのブリッジを持ち上げながら言う。
光が反射して、細かい表情までは窺えなかったけれど。
その瞬間、確かに微笑んでいた気がした。
END