碧蓝回忆录日服文字版/縹映る深緋の残響
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2021-08-16更新
最新编辑:芙兰朵露琪露诺
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更新日期:2021-08-16
最新编辑:芙兰朵露琪露诺
縹映る深緋の残響
飛龍:
準備はまだですか!?敵の反撃が来ていますよ!
赤城:
……一航戦、二航戦、艦載機を魚雷装備に兵装転換しなさい。対艦攻撃よ!
加賀:
なっ!?このタイミングで!?
姉さま、なりません!敵に兵装転換の隙を突かれたら!!
蒼龍:
高度2000に敵機多数接近中!
赤城:
後ろから!?
加賀:
くっ!直掩隊を呼び戻せ!対空火力を!
ぐぁああああ!!
凰:
加賀!加賀あああああああ!!
………………
……
ぬかった…こんな時に
…
…すまない。あなたの期待に応えることができなかったようだ……
……
天城…さん……
――縹映る深緋の残響
――確か…昔の話だったな……
鳐:
ふふふふ……詰みです
加賀:
あ!
凰:
姉さまの十連勝よ!
加賀:
お前…!私の金将を誘いやがったな!ずるいぞ!
鳐:
ええ、加賀はあまりにも攻撃一辺倒ですし、王将が中段に置かれた時点で流れはもう決まったようなものです
攻めるより守りと見せかけ、相手を誘い込むのも時には有効的な策と言えましょう
加賀:
ちっ、ドヤ顔でシッポを立てやがって…今回はたまたまこっちが油断しただけだ!今に見てろ……
ええい、もう一戦だ!
选择项1:もう一回申し込む
选择项2:ここまでにする
加賀:
(选择项1)ああああ!!
凰:
(选择项1)姉さまの十一連勝よ~!
鳐:
もうこんな時間…赤城、そろそろ帰りましょう。加賀の練習を邪魔してしまうのは不本意ですから
凰:
あ、はい!
加賀:
待て、勝ち逃げする気か?
鳐:
そうではありません。明後日は年に一度の重桜連合艦隊の大演習であること、忘れていませんか?
演習とはいえ、今日のような勝負より、実戦で決めたほうが公平といえましょう
加賀:
…そうだな。ならどっちが最強の新世代戦艦か、実戦で決めさせてもらう!
陸奧:
長門姉、陸奥ちょっと調べたけど…今回の参加者たちはみんなすごくやる気らしいよ!楽しみ!
長門:
皆がいるところで余のことを長門姉と呼ぶのは控えよと言ったではないか…!
陸奧:
えーでもなんで長門姉って呼んじゃ駄目なの??
長門:
んんん……もう好きに呼べ……
はあ…それより、連合艦隊の演習か…うまくいくと良いな……
長門:
余は此度の演習の審判を務めさせてもらう、連合艦隊旗艦・長門である!
…世界情勢が複雑怪奇、なおもセイレーンが跋扈している中、我が重桜が面する状況は決して楽観的とは言えぬ!それゆえ――
我が重桜は一層、一致団結しなくてはならぬ!
そして我が重桜艦隊は、より大きな力を発揮せねばならん!
連合艦隊旗艦、そして重桜の神子である長門は、演習に参列した艦船の面々たちを見回す。
今回の連合艦隊演習で勝利した側の旗艦は、次期連合艦隊旗艦に任ずる!
みんな:
!!!!
加賀:
長門様の次の…連合艦隊の旗艦!?
陸奧:
静粛に!
では、これより今回の演習艦隊の編成を読み上げるー―
赤軍・巡洋戦艦天城……………
青軍・戦艦加賀……………
加賀:
予想通りか。天城、ここでお前を倒せば……
長門:
今回の演習は我が重桜連合艦隊の未来の趨勢を決めるものである
各員はこのことを心に銘じ、己の全てを発揮し、悔いのない戦いを行うが良い!
……では――連合艦隊演習を開始せよ!
旗風:
おや?赤の旗艦であるあなたが出てくるとはね
天城:
演習は鬼ごっこではありませんからね。私がいつまでも現れないと、加賀のほうが困った行動に出る可能性もありますので
旗風:
しかしこうも前線に出るとは大した自信だ。ちなみにこの演習、お主にとってもただのお遊戯ではあるまい?
天城:
どうでしょう。確かに私は策を練るのが好きですが、戦うことに関して不得意とは一度も申したことありませんね
旗風:
ふむふむ……お主が敵じゃなくてよかったと、つくづく思わせてくれるな
まあ、ここは敵らしく道を阻んでみてやろう
通りたければこの旗風を倒すがよい!
天城:
お互い気楽に参りましょう。ふふふふ……
旗風:
こんなところか。流石に火力が違いすぎるとどうすることもできまい
天城:
そちらもうまく職務を果たすことができましたね
旗風:
……天城。お主、本気か?
天城:
どういう意味なのでしょう?
旗風:
連合艦隊旗艦候補のことだ
天城:
…………
旗風:
お主の振る舞いこそ普段とは変わらんが、戦えば違いがわかる
ちなみにお主の戦意は今まで見たことのないほど高揚しているようだな
その気になれば後方で指揮担当に徹しても同じ戦果が得られるだろうに、前線に出る理由など思いつかぬにもほどがある
天城:
それはどうかしら…私はただ今までのやり方とは違う、別のものも必要になるかと
時代は変わっていっていますし、毎年演習で同じような戦い方では、将来的に実戦の中で通用しなくなる恐れもあります
状況は決して楽観的ではないと長門様も仰っしゃいました。もう我が身のみを考えるような時期ではなくなっていますわ
新しく考案した戦い方が通用するかどうか…艦隊全員に関わる課題を演習を通じて検証することができれば、
それだけでも十分試す価値がある、と私は考えています
旗風:
なるほど、確かに一理あるな..
お主が良ければそれで良い。連合艦隊の旗艦が誰であろうと、ついていくに違いないがな
旗風はそう言いながら演習海域から離れた。
…………
陸奧:
「これより演習初日の戦果確認に入る!」
こうして、連合艦隊演習の初日が終了した。
天城:
ゲホ、ゲホ…ようやく終わりましたね…危うくバレてしまうところでした……
流石に体を長く動かしていないと…ゲホゲホ…この程度で倒れそうになったとは……
…もう少し、あともう少しだけ……
天城:
ふふふふ……あなたが攻撃部隊を率いているのですね。那珂
那珂:
はい!天城さん!
天城:
元気で何よりです。那珂はこの手の演習は初めて?
那珂:
はい!重桜の先輩方と一緒に戦えて、そして次の連合艦隊旗艦が選ばれるのも見られるなんて、光栄に思っちゃいます!
天城:
ふふふ、張り切るのはいいですが、ここが戦場であることを忘れてはいけませんよ?
那珂:
もちろんです!いくら天城さんだからって、お辞儀してはいどうぞお通りください、なんて言いませんよ!
天城:
では、あなたの力、重桜の皆さんに見せてちょうだい?
那珂:
さすが天城さん!那珂負けちゃいました!
天城:
ううん、そちらもよく戦えていましたわ。お姉さん達から色々と学んだのですね
那珂:
天城さんは姉さんたちとも仲がいいのですか?
天城:
どうでしょう。でもお二人は前の演習では結構目立っていましたわね
神通の「知」、そして川内の「力」……あなたの素質も彼女たちと比べて勝るとも劣りませんわ
那珂:
えへへへ…ありがとうございます!引き続き頑張っちゃいます!
天城:
……赤城にもあなたのようになってほしいですわ
那珂:
あの赤城さんのこと…ですか?
天城:
ええ。赤城は…まあ、そうね、少し甘やかしすぎたのでしょうか……
那珂:
そうですか…?赤城さんもすごく強いと思っちゃいますね
天城:
力があっても、それを御する心がなければ、全てが上手く行くならいいですが、もしそうではなかったら……
那珂:
大丈夫ですよ。天城さんがいますから!
天城:
そんなこと……げほ!ゲホゲホ!
天城が急に咳き込んだ。
那珂:
天城さん!大丈夫ですか!?
天城:
大丈夫です…げほげほ…演習の準備で少し体の方に来ているだけです
ふふ、情けない様子を見せちゃいましたわね
那珂は早く港に戻りましょう?もう「撃破」判定がついていますから
那珂:
は…はい!天城さんこそお大事に!
天城:
ふぅ……
私がいるから、ですか?……確かに……
でも、果たして私があとどれだけあなたのそばにいられるのでしょうか。……赤城
天城:
なぜか皆急いでいるようですね…朝からどうしましたの?
旗風:
ようやく来てくれたか。天城、ちょっとまずいことになった、付いてきてくれ
二人はみんなが集まってきている場所に急いだ。
――そこは、演習情報の掲示板前だった。
加賀:
お前は間抜けか?
「私が演習に参加できれば天城姉さまが出るまでもない」だと?その未完成の武装と馬鹿げたやる気だけでか?
凰:
そっちこそ戦闘から尻尾巻いて逃げたくせによく言えますわ!
加賀:
戯けが。あのずる賢い女狐はな、せこい策で相手を陥れるのが一番得意な分野だ
相手自らが前線に出たからといって安々と釣られるなんて、いくらお前のような間抜けでもやらんだろうが
それに私は「戦艦」だ。お前たち「巡洋戦艦」とはわけが違う
自分のその薄い装甲でも見るがいい。この私、戦艦「加賀」が殴り合いに怖じ気づくとでも思うか?
凰:
なんですって!?私と姉さまは最初から貴女と違って速力重視よ!そもそも貴女の鈍足で私達の30ノットに追いつけるのかしら?
加賀:
ふん、まさか今のは逃げ足が速いことの自慢ではあるまいな?
凰:
……髪の色の通り、頭が真っ白になったのね。このわからず屋!
加賀:
お前こそ、この胸の大きさだけが取り柄の腰巾着が…!
――カン!
加賀:
あぐぅ!?
今にも喧嘩しそうな二人は、突然現れた猛烈な殺気を前に一瞬にして沈黙した。
鳐:
「ずる賢い女狐」とは誰のことでしょうか~?
凰:
天城姉さま!
――カン!
鳐:
みんな仲良くしましょって言ったではありませんか~加賀と喧嘩してどうするんですか~
はーい、仲良しの握手ですよ~
天城はニコニコしながら二人の手を強引に繋げさせた。
……二人の頭にタンコブもできてしまったが。
――この人、本当に怖いんだ。
慈愛あふれる笑顔に隠された鋼の巨獣すら怯えさせる殺気を浴びた人々は、確実にこの事実を認識できた。
鳐:
はい、これで仲直りですね。めでたしめでたし
赤城と加賀が涙目になった。
鳐:
重桜の未来は私達が背負うのですから、みんな仲良くしないと敵には勝てませんよ~
はいはい、今日の演習がそろそろ始まりますので、皆持ち場に帰りましょう?
握りしめた手に少しずつ力が入り、どうやら完全には納得していない様子の二人だったが――
それでも天城の無言の殺気に圧され、渋々と手を離し、相反する方向に歩き出した。
加賀:
命拾いしたな腰巾着。次お前が戦場に立った時に格の違いを思い知らせてやる
凰:
ふん、今日こそ天城姉さまが天城型こそ最強であることをきっちり教えてやるから、逃げるんじゃありませんわ
周りにいた野次馬たちも少しずつ離れ、そして――
最後までその場に残った天城だけが静かに何かを思い耽けていた。
加賀:
ようやく戦場で会えたな。天城!
天城:
玉の守りは金銀三枚……守りを攻めとする戦法を学びましたわね
加賀:
お前のおかげだ。正直、知略も戦術も確実にお前の方が上だが…
戦闘ならお前などには決して負けん!
天城:
でしたらこうしましょう――あなたが勝ったら、私はあなたの道を阻むものを排除する存在となり、
私が勝ったら、あなたは私が遣わす最強の刃となり、私の策に協力してもらうとしましょう
加賀:
……当たり前だ。
連合艦隊旗艦候補の座はいただく――ゆくぞッ!!
天城:
玉は包むように寄せよ……もう逃げ場はありませんよ
加賀:
いつの間にか包囲されていたとは…お前はやはり戦力を隠していたな
天城:
「兵は詭道なり」――演習の開始前から用意していた策です
加賀:
くっ…!まさかここまでとは……
こうして戦っている間にもかかわらず冷静に戦術を調整し、指揮までこなす……
私の完敗だ。煮るなり焼くなり好きにしろ
天城:
ふふふ…ではこれからは「天城さん」とでも呼んでいただきましょうか?
加賀:
お前な……!調子に乗りすぎだぞ…!
二人の談笑がしばらく続いた。
天城:
一つ気になったのですが、加賀の戦い方はいささか冷静さを欠いています
今日が演習ではなく実戦なら…加賀?あなたはもしかしたら……
……
重桜連合艦隊大演習は長門の祝辞で終わりを告げようとしていた。
長門:
皆の者、重桜連合艦隊大演習、大儀であった!
此度の大演習は、天城の率いる赤軍も加賀の率いる青軍もよく戦ってくれた
双方の練度、規模、装備に大きな差がない以上、最終的な勝敗を制するのは戦術だと評する者もおるが……
砲術や雷撃戦の技術的な習熟、普段と違う編成における味方同士の共同作戦など、今回の演習で得られた作戦経験は間違いなく連合艦隊の宝と言えよう
この経験をぜひ活かしてくれ、きたるべきセイレーン、ないし他勢力との戦いに備えることを心得たまえ
さて、件の連合艦隊次期旗艦についてだが……
然るべき時期にて、余から天城型巡洋戦艦・天城に委譲する!
神子と並ぶ重桜の守りの要、かの三笠様より受け継がれてきたこの大任、心して務めるが良い!
凰:
姉さまが…これで連合艦隊の旗艦に……!
赤城は嬉しさのあまり涙目になった。
長門:
それと、もう一つ皆に伝えねばならぬことがある
余とて急に受けた報せゆえことの顛末をうまく反芻できておらぬが……
長門の声が一気に低くなった。
知っての通り、数十年前のセイレーンとの大戦での戦果は、途方もなく資源を投じてようやく得られたものである
それは我ら重桜だけでなく、海に遍在する青き航路を生命線とする全ての勢力が等しく支払った勝利の代償……
それゆえに、セイレーンが一時的に撃退され、国力回復が急務となった今、各陣営の上層部が協議して一つの条約を結んだのだ
ユニオンとロイヤル、重桜、アイリス、サディア…かの大戦に参加した勢力の人間の上層部は概ね条約に署名しておる
どの陣営も覇権を得られぬよう枷をかけ、力の均衡を図ると同時に、艦船、そして艦隊維持に費やす国力を節約するため――
「協議の元で定められた分、海軍戦力を削減する」というものである
……驚いたのは余も同様だぞ
これからは新たな主力艦を建造することが許されず、そして建造中の主力艦も建造凍結か、別艦種へ設計を変更させる、という内容だ
それでも条約を超えてしまうのであれば、その艦船は……
――「■■■■」するのだ
分かっている。
変化に適応したものだけが生き延びる。
弱き者は淘汰されるが運命。
弱さ故に滅される。それだけだ。
ならばせめて、己が全力を尽くして戦場で散るのが私の望み。
「連合艦隊、そして重桜のことは頼む――」
「私の…………」
狳:
天城さん大変です!加賀さんが置き手紙だけ残して、一人でセイレーンが支配している鏡面海域の方に向かいました!
速力の早い駆逐艦たちが追っていますが、戦力的に鏡面海域での捜索は……
足柄が加賀の残した手紙を天城に渡した。
鳐:
これは……加賀、あなたまさか……
状況はわかりました。引き続き捜索をお願いします。あとは私に任せてください。
狳:
は、はい!
鳐:
上層部が締結した「あの条約」……あの時からすべてが変わりました
私たちだけではなく、かのユニオンに所属しているレキシントン級と言われている子たちも……
凰:
天城姉さま、私たちも設計変更されて、空母とやらになるのでしょうか…?
41cm砲、一度も撃ったことがないというのに……
鳐:
………………
私の残り少ない時間でやり遂げなければならない策には、加賀の協力が必要不可欠…
しかし性急に編成した艦隊でセイレーンの領域に攻め入るのは無策の極み……ならばどうやって…
凰:
今まで貫いてきた大艦巨砲主義の代わりを、空を飛ぶ蚊蜻蛉のような艦載機に果たせるというのかしら?
鳐:
………………
なるほど、そういう手もありますわね…
空を飛ぶ蚊蜻蛉……これしかない……!
天城は急いで赤城の自室から出た。
天城:
はぁ…はぁ……鳳翔さん、今少し…お時間を…はぁはぁ……いただけますでしょうか?
鳳翔:
天城さん…!?急にどうしました?
艤装なしでの運動が久しぶりなのか、急いで走ってきたせいで息が切れそうになっていた。
天城は何回か深呼吸をすると――
天城:
折り入って、重桜最初の空母であるあなたに相談したいことがあります
鳳翔さん、あなたの艦載機で鏡面海域に居る加賀を探していただけますでしょうか……?
鳳翔:
それは……この子たちはまだ慣熟訓練を終えたばかりで、実戦にはまだ……
天城:
偵察だけで十分です。加賀さえ見つかれば、後は私たちでなんとかします
鳳翔:
……わかりました。天城さんの頼みでしたら
潮風を浴びながら、空母・鳳翔は片手を曇り空に覆われる水平線に向かって伸ばして――
鳳翔:
艦載機たち、お願いします。その翼を海風に乗せて――
甲板から次々と艦載機たちが飛び立ち、鳳翔のいる海の上空で旋回し始める。
その隣で、鏡面海域捜索に随伴する僚艦たちを連れてきた天城と赤城がただただ静かにその様子を注視していた。
……彼女たちにとって、空母、そして艦載機はそれだけ驚異的な存在だった。
鳳翔:
鏡面海域に向かって、加賀さんの行方を探してちょうだい
そしてみんな、無事に帰還するのよ!
鳳翔の指示を受け、艦載機は扇を描くように7つの方向に向い、そして遠くの空に消えていった。
天城:
ご協力感謝します、鳳翔さん。加賀を必ず連れ戻して参ります。それと……
天城は鳳翔に軽く耳打ちして、僚艦たちに移動指示を出す。
鳳翔:
わかりました。ご武運を
凰:
姉さま、ここからは艦載機と連絡をしながら鏡面海域で捜索するのですね
天城:
ええ、この子たちは意外と上手くやれるかもしれませんわ
それより赤城、見送りはここまででいいですよ。あなたは艤装がまだ完成していないから、素直に母港に戻って改修の準備をしないと
凰:
でも、やはり私、悪い予感が……
天城:
姉の話を聞いて。加賀は絶対連れ戻しますから
まだ頼りない妹に安心させる言葉を投げ、天城は背中を向けた。
自身も隠しきれない焦りと不安を、妹に察せられないように――
天城:
ここはセイレーンに占拠された海域……半月前にここを通りましたけど、やはり航路以外は……
旗風:
セイレーンの動きは予測不可能。こちらの演習海域まで進出するのはさすがに天城だって見通せないぞ
足柄:
鳳翔さんの艦載機より連絡です!2時方向に戦闘の痕跡ありとのことです!
天城:
良いお知らせです。艦載機、確かに侮れるものではありませんね。ふふふ……
全艦、警戒態勢に移行してください。接近してくるセイレーンへの応戦も各自の判断で行うように
ドカーン!
天城:
……くっ!
狳&豻:
天城さん!
天城:
大丈夫、かすり傷ですわ。ただ…流石にこの自爆能力は予測できませんわね…不覚です
足柄:
天城さんは無理しないでください!ここは私たちが…
天城:
いいえ、そういうわけには参りませんわ
兵と甘苦を共にせず、策だけ講じては、奇策鬼謀も机上の空論になりましょう
いつまでも帷幄に引きこもる者は知将ではなく、ただの臆病者に過ぎないのです
天城は大演習の時と同じく、後方支援に徹するのではなく前線に出ている。
那珂:
天城さん……
天城:
私がこうして前に出て戦うからこそ、得られる成果もありますもの
天城は海に浮かんでいる加賀の艤装と思われる破片を拾い上げる。
天城:
一人でここまで来られるとは…思った以上にお強いですわね
困りますわね……
足柄:
変ですね…9時方向に行った艦載機たちからの連絡がないです…
天城:
…鳳翔さんは全機無事帰還してほしいと願っていましたわね……困ります……
連絡が途絶えた原因はセイレーンに撃墜された可能性が高いでしょう。ほかの方向に加賀がいる痕跡が見当たらない以上9時方向に進むしかありませんね
那珂:
天城さん、たた、大変です!
天城:
那珂、どうかしました?
那珂:
え、ええと…空から結構な数の機影が接近しています!
天城:
これは……!
空母型のセイレーンがいるのはほぼ確実…全艦、対空態勢に移行してください!
那珂:
た、対空態勢ですか?
天城:
ええ、之字運動にして、副砲の仰角を最大仰角に上げて飛んでくるものを撃ち落としてください
那珂:
は、はい!那珂、頑張っちゃいます!
天城:
加賀!!
加賀:
天城!?どうしてここに!?
天城:
あなたこそ、なぜこのような行動をするのですか!
「連合艦隊、そして重桜のことは頼む――」などと……
加賀:
空母改修など弱き者がするようなことはせん!私は……
――パッ!
説得の代わりに、平手打ちに見舞われた加賀。
天城:
自分だけが不幸だという思い込み、自暴自棄になり身投げする愚行、己を納得させようと強者だの弱者だの散々並べたその理屈!
――すべては所詮、あなたが現実から逃げるための言い訳にすぎませんわ!
加賀:
……………
ならば教えろ…条約に縛られた私が、どうやって戦うというのだ…!
天城:
ここに来るまでに長門様に伺いました
母港に戻って、もう一度だけ戦って己の力を示せば、上申して処分を変えようと仰ってくだいました
加賀:
……それは真か?
天城:
加賀を騙す理由は私にありませんわ
その時、セイレーンの艦載機の大群が再び艦隊に接近してきた。
天城:
……その前に、この海域から無事脱出する策を考えないといけませんね
制空権なき戦いのやりにくさを噛み締めながら、天城は深呼吸して、艦隊指揮に集中する。
天城:
各員、防空態勢を維持しつつ索敵を行い――敵空母発見次第転進、撃破してください!
空母型のセイレーンが撃破され、指揮するユニットがなくなったからか、敵機が次々と対空砲火に落とされた。
生き残った敵機は艦隊を奇襲するチャンスを伺うように、対空砲火が届かない高度まで逃げ込んだ。
足柄:
天城さん、残り弾薬はあと僅かです!……撤退指示をお願いします!
天城:
艦載機による波状攻撃、制空権がないだけでここまでおそ恐ろしい戦術になるとは…
母港に帰還したらその対策も考えないと…専用の兵装研究も急務ですね……げほげほ!
天城は急に咳き込む。
加賀:
天城、お前――
天城:
時間が…ありません……ここから早く、離れないと……
話が終わらないうちに、天城はまるで糸の切れた人形のように倒れ込み――
倒れる直前に、加賀に抱き抱えられた
加賀:
おい!天城!しっかりしろ!
天城!!
味方艦隊の指揮艦が戦闘不能になった――この大きな隙をセイレーンは逃すはずがない。
爆音、そして閃光――
倒れた天城を守るよう、加賀が盾になって爆撃機の爆弾をそのまま側面装甲で受けた。
天城:
げほげほ……躱せる…はずなのに…
加賀:
戦艦の装甲を甘く見るな。お前はおとなしく黙って母港まで曳航でもされていろ!
ドカーン!!
再び現れたセイレーンの攻撃隊は執拗に加賀と天城を攻撃し続けた。
加賀:
…くっ!手強い!
弾薬不足で対空砲火も手薄になり、加賀と天城の周りに次々と至近弾の水柱が出来上がる。
加賀:
このままでは全滅だぞ…!どうすれば…!
天城、私は一体どうすればいい!
天城:
あと…もう少し…
加賀:
もう少しとはなんだ!おい!天城!
状況はまさに八方塞がり。空母との戦法をまだ十分確立出来ていなかった大艦巨砲主義の申し子たちは、航空攻撃には根本的に無力だった
加賀:
最初から私を探しに来なければ、お前たちは…!
「心の弱い自分だけでなく、助けに来た仲間の命まで無駄にした」
屈辱的な結末を、今まさに受け入れようとしたその瞬間―――
それは複葉を有する、秋津(あきつ)の援軍なり――
天城:
げほげほ…間に合いましたわね……
まるで曇り空をかき分けたかのように現れた複数の複葉機に、
セイレーンの異型なる艦載機は不意打ちされ、瞬く間に全機撃墜された。
加賀:
こいつらは……?
天城:
鳳翔さんの艦載機ね……もう旧式かもしれませんが……
流石のお手前です…ここまで連携を上手くとれれば、策も……
加賀:
だが一体どうやって私たちの場所を…?
天城:
そうですね…出発の前に、偵察機の連絡が途絶えたら、その方向に直掩隊を送るようにと……
私たちも空母を運用し始めていますから…セイレーンも……
加賀:
天城………いいや、天城さん……!
あなたの言う通り、私があなたの最強の刃となり、重桜の敵をすべて切り裂く存在となりましょう!
後少しだけ持ちこたえてください!……皆の者、このまま直掩隊の案内で母港に帰還するぞ!
加賀:
状況はどうだ?
旗風:
意識が戻ったとはいえ、あまり楽観的とは言えないな。……とにかく今は面会謝絶だ。
旗風は絞り出すような声で加賀に説明する。
どうやら天城のリュウコツに欠陥があったらしい…最もメンタルキューブのことは誰にもわからんがな
少なくとも、今まで無理に無理を積み重ねて、抑えてた不調が一気に表に出た、ということは確実だ
……この間の一件もその一因ではあるが……あまり自分を責めないでくれ
ただ……
加賀:
ただ?
旗風:
この状況では空母に改修するのもかなわんな……
加賀:
まさか……
旗風:
お前が考えうる最悪の状況と言ってもいい。ちなみにこのことは誰にも教えておらん
赤城も含めてな。……あの子は今、空母改修を受けてる最中だ
加賀:
……………
加賀は無言で立ち去った後――
天城:
旗風……?
旗風:
ここにいるぞ。天城
天城:
あと…一手だけ……お願いします…
旗風:
無論だ。お主の望みは叶えよう
そして、運命の日が訪れた。
長門:
余は長門…重桜連合艦隊旗艦・長門である!皆の者、よく聞くが良い!
先日、重桜の勢力圏内にある一部海域が鏡面海域化されたという報せが届いておる
無人の離島とはいえ、演習海域にセイレーンに占拠されたのは紛れもない重桜の不覚である
その対策として、連合艦隊は新たな近海の警戒態勢の強化、今後の改修計画の再検討が上層部より決定なされた
そこで、大型艦および人型セイレーンの来襲に備え、水雷戦隊と主力艦の即応体制を強化するため、
今一度、連合艦隊による対抗演習の開催を宣言する!
赤軍と青軍の編成は大演習と同様であるが、気を抜くことなく、実りある戦いをすることを心得よ!
(…天城、お主はこれで本当に良いのか……)
加賀:
天城さん、あなたは一体何をするつもりですか!
天城:
旗風から聞いたのですね。私の体のことを
これから世界は変わります。大艦巨砲時代への熱狂はじき収束されるのでしょう
これからは……航空母艦の時代です
……あなたは笑うかもしれませんけど、実は私ももう一度だけ巡洋戦艦として主砲を鳴らしたいと思っていましたわ
ですから空母改修より、こうして演習で戦うことを選んだのです
加賀:
天城…さん……
天城:
加賀も、一度くらいは私に勝ちたいでしょう
せっかくの機会です。手を抜かれたら……私はきっと、いつまでも恨みますわよ?
加賀:
わかり…ました………ふふ、全く、幸せものだな。私は
天城さんのような最後まで自分を貫くヒトが相手なら、全力をぶつける以外考えられませんね
……加賀型戦艦・加賀だ!
天城:
……天城型巡洋戦艦・天城
加賀&鳐:
いざ、参ります!
天城:
強くなりましたわね。私の策も簡単にはもう通用しないぐらい…ふふふふ……
加賀:
全てはあなたが教えてくれました
天城:
ならもう教えることは何もありませんね。姉さんは満足です
加賀:
待て、「姉さん」!?
天城:
………加賀、よく聞いてください
天城は真剣な表情で加賀に語りかける。
世の中には「強者」と「弱者」がいるとあなたが言いました
「天城」として生まれた私は、紛れもなくあなたの言っていた「弱者」……
ですが、こんな弱き者の私でも、皆を、そして妹の赤城を守れる「強者」になろうとしていました
だから必死に訓練して、勉学に励んで、自然と「強者」と思わせるような振る舞いをして、
あなたもが認めるほど、私は「強者」でいることができたのです
これからは航空母艦の時代…
空母へと改修されるあなたと赤城は重桜の要となりましょう
そして世の中にはあなたと同格…いいえ、あなたが「強者」と認める存在がたくさんいます
――敵を侮らず、もっと強くなりなさい
「弱者」として生まれた私と違って、あなたは「強者」であり、そして「強者」であるべきよ
あなたと赤城が持つ栄光なるリュウコツには、その資格があるのです
だから、「弱者」としての天城ではなく、あなたが思う「強者」としての私の「因子」を背負って、
重桜の守り手として、どうか、末永く――
鳐:
…………………赤城のことも、頼みます…
…………
加賀:
……私は……
赤城:
加賀、起きたの?
加賀:
赤城姉さま、私は一体……
赤城:
ううん、なにも。この間の戦闘の疲れで何日か寝込んでただけよ
寝てる間に懐かしい名前を何回も呼んじゃって、ふふふ
加賀:
修理はもう済んだのですか
赤城:
どうかしら?私もついさっき目覚めたばかりだけど…それより、私がいつも身につけている飾りを見なかった?
一体どこで落としたのかしら…?まさかあれを狙う子がいるというの…!?となるとオシオキしないとダメなようね……
加賀:
…………
赤城姉さま、あなたは……
(やはり、いつもの赤城姉さまだ……)
赤城:
何をぼーっとしてるの?早く支度して「聖域」に向かいましょう?
「計画」は順調に進んていれば、あと少し…
あと少しで、「あの方」に会えるのよ…ふふふ……
天城:
長門さま、ご機嫌麗しゅうございます
長門:
天城か。余を訪れたのは何用じゃ
天城:
僭越ながら、加賀について一つを意見具申を申し上げたく存じます
長門:
良い。申せ
天城:
条約に基づいた戦艦・加賀の処分の撤回をお願い申し上げます
長門:
……ふぅ……天城、余とてこんなことを望んでおらぬ。だが条約はもう調印されておる。誰かが……
天城:
誰かが加賀の身代わりにならない限り……ですね?
長門:
…………
天城:
御存知の通り、私は連合艦隊の旗艦を務められぬ身。遅かれ早かれ余人に託すことになりましょう
今加賀に任せるのでしたら、少なくともこの病体でも最後まで重桜に奉公できると……
長門:
それがお主の望んでいることか?
天城:
無論です。加賀は今、動転して鏡面海域に向かっておりますが、私が隊を率いて連れ戻して参ります
そして次の演習にてこの件を正式に公表、赤城と加賀の艦種変更の手続きを行えるよう、段取りを取らせて頂きたくお願い申し上げます
勝手を申しまして誠に恐れ多いことですが、何卒ご賢慮いただきますようお願い申し上げます
長門:
………………
……わかった。お主の願い通りにしよう
天城:
ご英断感謝いたします
それと二人の艦種変更につきましては、鳳翔に慣熟訓練のご協力をいただくよう手配いたします
あの二人の素質でしたらきっと重桜を支える主力になりましょう……げほげほ
長門:
……無事に戻ってくることに祈る。天城、お主も体を労わるのだぞ
天城:
恐れ入ります
天城:
この飾り、もらってくださいます?御守り代わりにも使えますよ
実は赤城にも用意しましたわ。あなたにあげたそれの対となるもの…いいえ、予備ですね
加賀:
(天城さん、なんで急にこれを……?)
天城:
ふふふ、たまたまお社で買っただけですから、そう真剣に考え込まなくてもいいですわ。さあ
加賀:
(天城さんが人に贈り物をしてるところを見たことはないが……)じゃ、じゃあもらいます…よ?
天城:
ええ、身につけてくれると嬉しいです
加賀:
はいはい、天城さん
(空母の時代……あなたの言った通りだ。天城さん)
(あなたの願いどおり、私は今でも空母として「姉さま」――赤城姉さまを守っている)
(かつては腰巾着などと呼んでいたのに、今や重桜の重鎮…)
(時々、姉さまからあなたの面影すら感じることがあります)
(おそらく錯覚か、それとも私の未熟ゆえのことか…)
(それでも、赤城姉さまは私の家族も同然…私は、彼女を支えていきたい)
(あとはあなたの予想をも超えているセイレーンの動向…)
(天城さん、教えてください。私はこれから、どうすればいい……?)
赤城:
ふふふ、またネズミが迷い込んでいるようね……
???:
(広域モニタリング、結構使いこなしているわね、ふふふ)
赤城:
五航戦のあの子たちね。何も知らずになんて愚かで嘆かわしいことを……
「カミ」より預かったこの新兵器で、その力を試してみようかしら~