碧蓝回忆录日服文字版/翳りし満ちる影の華
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2021-08-16更新
最新编辑:芙兰朵露琪露诺
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更新日期:2021-08-16
最新编辑:芙兰朵露琪露诺
翳りし満ちる影の華
……正直、実感が少し湧かないんだ
「聖域」を求めて鏡面海域に迷い込んで、翔鶴姉と危ない目に遭って
そして三笠大先輩と出会って、長門様を目覚めさせて、
なのにまた、赤城先輩と加賀先輩のいる、この海に踏み込んだなんて
赤城先輩たちは一体、何を狙っているの?
私も、翔鶴姉も、大先輩や長門様でも…ましてや重桜の皆ですらも、それはわからない気がする
だから、私は――
重桜・祭儀(さいぎ)の島
カランカラン!
響:
龍鳳さんどいて――!
機材を運んでいる特型駆逐艦「響」はバランスを崩して今にも転びそうだ。
カラン!ドン!カン!
――狼狽しながらも尻もちをついた響は、式典に使われる機材を散らかしてしまった。
響:
あいたた……
龍鳳さんひどいよぉ…響を助けてくれないなんて><
名前を呼ばれたのは、潜水空母「大鯨」から改造され、軽空母になった「龍鳳」であり、彼女は機材を優雅に拾い上げた。
龍鳳:
艦船はそれぐらいでは怪我しないでしょうに。というか機材は大事に運びなさいって言いましたね?
響:
もーう、龍鳳さん!
龍鳳:
祭儀まであとちょっとですから、もっと気を付けたほうがいいですよ
響:
……そういえば、あの子たちは本当に来るのですか?
龍鳳:
重桜所属なら来ないはずがありませんよ
「歴史ある重桜の祭儀を執り行い、カミに奉り我が行き先を示して頂けば、セイレーンと諸外勢力に脅かされ翳りし重桜の未来もきっと光明に満ち溢れよう――」と
???:
龍鳳さん、ここにいましたか
龍鳳:
能代さん?お疲れ様、何か用ですか?
能代:
鉄血の来訪者からの連絡を受信しました。祭儀には参加する――とのことですが、どうやら迷子になっているようです
龍鳳:
では……今回は初めてよその陣営から参加者が来るのですね
能代さん、そっちの案内をお願いできませんか?
能代:
………はい、すぐにかかります
ですが龍鳳さんには、重桜艦隊の威光発揚のため、祭儀に参加する艦船たちが戦果を競う奉納行事、「連合艦隊演習」--
行事の参加者と対戦組み合わせ、その手配をお願いします
龍鳳:
いわゆるお祭り騒ぎ的なもの…ではないので気を引き締めなければなりませんね
トントン
鬼怒:
龍鳳、赤城さんたちがそろそろ祭儀の島周辺に到着するぞ
響:
一航戦、やっぱり来たんだね~
能代:
龍鳳さん、まずはあなたの案内からですね
龍鳳:
……はい、もちろんです
重桜における大事な祭儀、いまは私…ううん、私達の手に委ねられている
…重桜のために、絶対失敗させませんっ!
ではみんな、それぞれの持ち場に戻りましょう!
みんな:
……はい!
龍鳳:
積年の恨み…ではなく、訓練の成果を皆にお見せします!
会場を一望して、龍鳳たちがそれぞれの持ち場に移動を開始した。
重桜の海は、祭儀の熱狂に包まれようとしていた
重桜・祭儀の島
数々の島で構成される、独自の文化圏を持つ一大勢力「重桜」
その本島から離れ、周りの6つの離島をかけ橋で繋ぎ、光を放つ太陽か、はたまた氷晶のような形の「祭儀の島」
ミズホの大地とは海の隔たりこそあるものの、数多くの祭事儀典が行われてきたこの島は、いわゆるスピリチュアルスポットというべき存在だ
加賀:
祭儀の島か…これはいい場所を選ばれたな
赤城:
ええ、ここも人々の思いや信仰が集まる、一つの「聖域」よ
上層部の連中、「決戦計画」と抜かす割につくづく無駄なことをするわね…
山城:
赤城は「決戦計画」のことを信用してないのですか?
赤城:
人的資源――力や、想いの言霊を浪費し、「触媒」を使ってまで作られた艦船がただ寝ているだけですもの
山城:
でも信濃さん、寝ているだけでも何が起きたかわかったり、祭儀の指示を出したりできるって噂ですよ?本当かどうかは…
赤城:
そんな噂を信じる子はよほど世間知らずなのかしら
加賀:
「翳りし重桜の未来もきっと光明に満ち溢れよう――」都合のいい戯言だ
赤城:
山城はどう思います?ここは専門であるあなたの意見も聞きたいわね
山城:
は、はい!ええとね、まずは祭儀の由縁を説明するとですね――
この祭儀の島に祀られている重桜の宝器(ほうき)--【ワタツミ】の封印が開封されまして…
で、祭儀で集まった信仰の力と宝器を触媒にしてー、海のカミサマに祈りを捧げるとー、カンレキ的にない艦船も現れるとかないとか
と、駿河さんは実はカミサマによって作られたお使いでした!ってオチですね…
あと、祭儀は元々重桜の神子が取り仕切り、「祭り」と「儀式」を組み合わせた一つの行事となっています
普通に考えると、長門様が出るわけですが、ええと……
絶対本来の想定通りにはならないです!はい!
加賀:
長門様は今……いや、なんでもない。やっぱりカミの言葉など望むべくもないか
赤城:
あの子はここには現れませんわ。瑞鶴と翔鶴、そして三笠様とともに行動している以上。
そもそも、【ワタツミ】があって、祝詞さえ暗唱できれば誰でもやれるでしょうに。
加賀、まさかこんな噂話を信じたわけじゃないでしょうね?
加賀:
信じるわけがない。…だが投資したからには回収を望まずとも、少しは報われたいだけだ
赤城:
ええ。不確かな予言にすがりつき、思いの言霊と宝器を浪費するよりは…………
山城:
すみません赤城さん、い、今の話、山城にはよくわかりませんけど危なそうな話ですね?もし誰かに聞かれたら……
赤城:
………
ふふふ、ただの冗談ですわよ
龍鳳:
祭儀の島へようこそ。案内役の龍鳳と申します
赤城:
出迎えは龍鳳かしら。お久しぶりね
龍鳳:
宜しくおねがいします。赤城さん、加賀さん
加賀:
祭儀のルールは分かっている。「祭儀に参加する艦船には、奉納として己の力を示すべし」だな
赤城:
加賀、軽空母だと侮らないことよ?祭儀の主催、その一翼を担える者だとしたら、実力があるのは確実よ
龍鳳:
はい。全ては我が重桜の未来のために……!
空母龍鳳、参ります!
龍鳳:
さすがは初代一航戦の先輩方…負けました
改めまして、遠路はるばる祭儀の島にお越しいただき、誠にありがとうございます
赤城:
ええ、手を抜く余裕すらなかったわ
それにしても龍鳳、大した成長ね。今の貴女なら、重桜の空母機動部隊の一翼を担っても申し分ないわ
龍鳳:
お褒めに預かりありがとうございます。ですが恥ずかしながら、私にはまだまだ勉強することが多く、いきなりそんな大任を任されましても……
赤城:
いいえ、これは素直な評価よ
世界は弱肉強食、お前のような力ある者のみが大義を唱えられる――加賀風に言えばそうなのかしら
と、冗談はさておき、此度の祭儀の準備、ご苦労だったわ
引き続き重桜の未来のために、ともに頑張りましょ?
龍鳳:
ははっ。では空母機動部隊の一翼を担う存在になることを目標に努力させていただきます!
ところで、赤城さんは私たち重桜を率いる存在です。こういう演習に顔を出す必要などないと思っていましたが…
赤城:
いいえ、こういう行事こそ協力させてもらうわよ
祭儀といい、セイレーン技術といい、例の上層部の「決戦計画」といい、使える手はなんでも使うのが重桜のやり方よ
龍鳳:
赤城さん……
赤城:
…………
(天城姉さまでも、こうするに違いないわ)
ふふふ、なんだか昔の自分を見ている気がするわ
龍鳳:
……赤城さん?
赤城:
いいえ、なんでもないわ。目標をしっかり持って頑張るのよ、龍鳳
龍鳳:
はい!
祭儀の島・周辺海域
瑞鹤:
ここが祭儀の島……重桜本島とも長門様の居所ともだいぶ雰囲気が違うね……
翔鶴:
そもそもこの祭儀、重桜の神子である長門様が執り行うべきだよね…まさか長門様を「都合により」ってハブっちゃうなんて
一航戦の先輩たち、上層部に随分根回ししたのね
瑞鹤:
鏡面海域の一件があるから、私たちを排除しようとしているかも…赤城先輩たち、本当にセイレーンと……
三笠:
瑞鶴、そう判断するのは早計だぞ。こうして祭儀の島に何事もなくたどり着いただろう?
瑞鹤:
まあいくら赤城先輩でも、三笠大先輩のこととなると無視するわけにはいかないからね。私もいつか「大先輩」って呼ばれたいな~
翔鶴:
あと何十年かすればいつかはなれるんじゃない?――瑞鶴大・先・輩♪
瑞鹤:
翔鶴姉その呼び方やめて!恥ずかしすぎるから!
三笠:
あははは、朝っぱらから元気があっていいことだ。……ここは一つ真面目な話でもするか
翔鶴、瑞鶴、祭儀の島に到着するまでにもう一度確認するぞ
確かにあの鏡面海域での赤城の行動は不可解で、重桜の仲間たちを傷つけようとしているとも捉えられる
だが赤城は今の重桜を率いる存在のひとりだ。重桜の仲間たちのためにも、真正面から赤城相手に事を荒立てるのは得策ではない
我の推測に間違いなければ、重桜内で「聖域」での赤城の行動を知っているのはごくわずかに過ぎないだろう
そもそも、あの海域がセイレーンの鏡面海域となると、あの海域でお主たちが出会った暁と山城も本物であるかどうか疑わしい
……翔鶴と赤城、加賀は本物だがな
ともかく、今回の祭儀の参加はあくまで赤城の行動の真意、そして重桜の仲間たちの認識を確認するためだぞ
瑞鹤:
つまり、味方を増やすためね!わかってますって!
三笠:
そうだ。いざという時に、我らの今の行動は仲間たちが味方になってくれるという結果につながる。社交場も戦場、というのはまさしくこの意味だ
思えば北方連合やロイヤルとはこういう機会が多いが、鉄血も参加するとなるとやっぱり一筋縄にはいかないな……
翔鶴:
ええ、臨機応変が肝心ですね
瑞鹤:
そろそろ主催側がおでましの頃ですし、気を引き締めてまいりましょう
駿河:
祭儀主催担当の駿河です。長旅お疲れ様でございます。三笠様、そして翔鶴さんに瑞鶴さん
三笠:
お主は噂の紀伊型三番艦駿河か。うむ、百聞は一見に如かず――祭儀の準備、誠に大儀である。重桜の仲間に代わって感謝するぞ
駿河:
ありがとうございます。自分は並み居る重桜の艦船の一人としてやるべきことをしたまでで、別に褒められるようなことは…
三笠:
ははは。謙遜も過ぎると卑屈になるぞ。聞いた話によれば合同演習の準備事務だけでなく、自ら参加も申し出たそうではないか
駿河:
は、はぁい……そういうことになっていますね
三笠:
演習とはいえ、他陣営の参加者もいる以上重桜の威光を示さねばならぬ。お主の力を試す故、我らと一回手合わせするのはどうかな?
駿河:
(え!いきなり!?こういうタイプはちょっと苦手だけど…!)
三笠:
あ!今「え!いきなり!?」って心の中で叫んだな!
駿河:
(なんでわかったの!?)
三笠:
「なんでわかった!?」って心で言ってそうだな。心が読みやす過ぎるのは感心しないな、まったく、最近の若者は…
駿河:
…っ!こんな質問をして恐縮ですが、どうして…わかったのですか?
三笠:
場数ってやつかな。戦場で敵の心を読もうと努力し続ければいずれ、コツがつかめるようになる
座学での成績が抜群だと聞いておる。どれ、この我が実戦というものを教えてやろう!
駿河:
三笠様が直々にご教示くださるのでしたら、こっちも全力を出させていただきます…!
三笠:
その心意気だ。さあ、かかってくるがよい!
駿河:
(三笠様相手に手を抜いてしまうとバレるに決まっている。本当の本当に、全力を出す…!)
戦艦駿河、参ります…!
三笠:
これは…爆撃機?
駿河:
ええ、三笠様の旧式艤装では対空火力が貧弱だとお聞きしております
なので、量産型の空母を後方に配置し、航空攻撃を仕掛けさせました。勝負を決めさせていただきます…!
三笠:
なるほど、戦艦である自分を囮にして空母を守り、航空攻撃でかく乱しつつ相手を追い詰める……合理的な戦法だ
だが――我が戦法までもが旧式だったと思うのは、とんだ勘違いであるぞ!
駿河:
で、ですよね――!
「我ら」と言っていましたし瑞鶴さんと翔鶴さんのサポートももちろんありますね…はあ、さすがに大先輩には勝てませんね……こっちの負けです
三笠:
まあ、我も何回も危ないところに追い詰められたがな
駿河:
その割にあっという間に状況を逆転させたじゃないですか…さ、さすが大先輩です……
(大先輩の兵装は把握済みで、こっちの攻撃位置と相対距離もほぼ完璧に保っていた…航空攻撃抜きにしても負けないはず)
(どこで問題が起きたか全く見当つかないわね……おっそろしいわこの人!)
三笠:
今「この人恐ろしい」と考えておるな?
駿河:
あ、いいえ!そんなつもりは…!
三笠:
良い。我を侮ったとは言ったが、どうやらそうではなかったようだ
航空攻撃を駆使しても、お主は自分の艤装を過信せず、突撃するのではなく、あくまで真っ当な戦術で我に挑んだ
……あはは、にしても時代の変化とは素晴らしいものだな。より強い機関に主砲、そして航空機ときたら
我はもう時代遅れ、と認めざるを得ないな
駿河:
(すんなり自分が時代遅れだと言えるなんて、流石ね…)
三笠:
我のことを嘆くでないぞ。戦に挑む者として、現実を直視しないでどうする
願わくば我のような時代遅れが出ないことだが、世の中はそううまくいかないものだ
一線から引いても、重桜が力を求めているとなれば、艦船である我も座視するわけにはいかない。重桜の艦船として己の責務を果たすまでだ
それが過去の仲間たちに託された、時の流れに押し流されようが果たさなければならぬ我の使命である
三笠は拳を胸の前で握りしめた。
三笠:
重桜以外の他陣営が参加するとのことだ。島の防衛態勢が万全か心配する年寄りのわがままだと思ってほしい
駿河:
ええ、お気遣いありがとうございます。こちらこそご心配をおかけして申し訳ありません
三笠:
あははは、すまなかった。瑞鶴、翔鶴、そろそろ島に進むとしよう
(かといっても、力だけを求めては己の道を歪めてしまう)
(赤城、お主は一体何を考えているのか…)
祭儀の島・近海
プリンツ・オイゲン:
ティーレ、まだ?もうお昼の時間よ?
Z2:
今頑張って記録して…ええ、そろそろ終わりますのでもう少し待ってください
海域丸ごとを一つの閉鎖空間とし、外からの観測を阻む技術――デタラメですね。セイレーン技術を応用した「結界」
プリンツ・オイゲン:
デタラメ?私たちの研究がまだその分野に足を踏み入れていないだけよ
それより、弾薬の準備は?
Z2:
ええ、十分です
プリンツ・オイゲン:
艤装のコンディションは?
Z2:
問題ありません。はい
プリンツ・オイゲン:
いい子ね。で、脱出ルートはどうかしら?
Z2:
確保済みですが。ここで確認する必要はないでしょう
プリンツ・オイゲン:
ふふん、念のため。ね
Z2:
赤城の計画はうまくいかないと思うのですか?
プリンツ・オイゲン:
私じゃなくて本国にいる「彼女」が心配してたわ
おかげさまで、計画書まで作るハメになったけど
Z2:
ええ…それにしてもすごくずさんな計画ですね。重桜の赤城
プリンツ・オイゲン:
そうよ?セイレーンは簡単に操れるものじゃないわ
Z2:
この祭儀を利用して人を集めておきましたから、そのまま戦力として投入できればいいですが。さもなくば…
プリンツ・オイゲン:
お気の毒だけど、重桜を従えるには必要なことよ。別に私がやりたいわけじゃないわ
Z2:
ええ、わかっています。最低ですが
プリンツ・オイゲン:
本国の決めた方針よ。疑う気?
Z2:
いいえ、そんなつもりじゃ…
最後の座標の走査と記録も完了しました。オイゲンさん
プリンツ・オイゲン:
そうね。さて、迷子のふりをするのはいい加減やめようかしら――あまり待たせても悪いしね~
能代:
祭儀の島へようこそ、鉄血来訪団の皆様
阿賀野型軽巡能代、祭儀の主催委員として皆様をお待ちしておりました
プリンツ・オイゲン:
レッドアクシズの盟友として、お誘いいただき誠に光栄でございます
鉄血にいる仲間たちに代わって、重桜の皆様ならびに信濃様に感謝の意を述べたく存じます
能代:
もちろんです。では、これより宿泊先にご案内させていただき……
プリンツ・オイゲン:
「祭儀に参加する艦船には、奉納として己の力を示すべし」――いわゆる前座として対抗演習があるって聞きましたけど?
能代:
ええ、確かに奉納として、演習弾を使った海戦演習が行われていますが
それはあくまで重桜のメンバーが参加するもので、鉄血の皆様にはそのようなことを強要いたしません
プリンツ・オイゲン:
ふーん、郷に入っては郷に従えってのがあるじゃない?私たちは重桜のこういう行事を体験したいんですけど?
能代:
それは……
プリンツ・オイゲン:
個人的な頼みでもあるわ。まさかこの祭儀の主催者側が客人の興を削ぐようなことをするとでもいうの?
能代:
……主催側として客人をもてなすのは当然です。そこまで仰るのでしたら、お望みどおりにいたしましょう
軽巡能代、恐れ入りますが鉄血の皆様のお相手をさせていただきます
プリンツ・オイゲン:
ふふ、本当はそっちも、最初からこれを狙っていたんじゃなくて?…重桜の最新鋭艦、その力を見せて頂戴
鉄血所属、重巡プリンツオイゲン
Eisen und Blut über alles!
プリンツ・オイゲン:
なによ、最新鋭艦なのにこの程度?
恐れ入ったけどどうやら冗談じゃなさそうね
能代:
(あの演習弾の威力とこっちに向けてくる露骨な殺意…プリンツ・オイゲン、本気で戦っていた…なら……)
(……ううん、相手は客人よ。ムキになってはいけないわ)
素晴らしい戦い方です。さすが歴戦の武勲艦、能代感服いたしました。
プリンツ・オイゲン:
戦い方?違うわ。これが実力差よ
貴女程度の相手なら戦い方を考えるまでもないわ
能代:
(プリンツ・オイゲン……!)
そうですか。ただの演習にもかかわらず全開でお付き合いいただき誠にありがとうございます
プリンツ・オイゲン:
あーあ、鉄血の盟友と聞いてあきれるわ。まさか重桜の最新鋭軽巡がこの程度じゃ重桜の力なんてたかが知れてるわね
もうがっかり。ディーレ、本土に戻る準備を
能代:
(……………………)
侮らないでプリンツ・オイゲン
重桜の最新鋭艦の力をそんなに見たいのでしたら、今からじっくりお見せします
私のことはともかく、重桜を侮辱したこと、後悔させてやります!
プリンツ・オイゲン:
あら、ようやく本気出す気になった?いいわね。その表情よ!
楽しく戦り合おうかしら!!
――――――!!!
能代:
隙あり…!
赤城:
ここまでよ、能代、下がりなさい!
能代:
赤城さん!?……かしこまりました
赤城:
まったくセイレーンが攻めてきたかと…何のマネかしら?鉄血のプリンツ・オイゲン
プリンツ・オイゲン:
危なかったわよ?重桜の伝統行事と聞いて観光客としておとなしく見学しようとしたけど
貴女がもう少し遅れていたら、私はこの子に切り捨てられていたところだわ
赤城:
それが本当でしたら、うちの能代がかのプリンツ・オイゲンに正面切って戦えて、しかも追い詰めただなんて、まさに光栄至極ですわ
……貴女、能代を沈めるつもりで戦おうとしましたわね
プリンツ・オイゲン:
私はただ普通にイベントを楽しんだだけよ?まあ煽ったのはこっちだけど
能代:
赤城さん、私あと少しで………
赤城:
少しなんかじゃありません。あの時向こうが一斉射でもしたら即修理ドック入りよ。
プリンツ・オイゲンのあれは隙ではなく、あなたを射線に誘導するための行動でしたわ
能代:
くっ…すみません赤城さん、少し冷静さを失いました
Z2:
オイゲンさんに煽られてそのまま乗ったほうも悪いですが、致し方ありませんね
ヒッパーさんなら最初の発言で爆発していました。ええ、それに比べて能代さんはよく我慢した方だと言えましょう
プリンツ・オイゲン:
ふふ、ごめんなさいね。真面目そうな子だからついからかいたくなっちゃって
謝罪の品として鉄血のお土産でも――と言いたいところだけど、どうする?
能代:
いいえ、挑発に乗った私のほうに非があります。申し訳ございませんでした
赤城:
……にしても、鉄血の到着が予定時間より随分と遅くなりましたわね。どこで迷子になりましたの?
プリンツ・オイゲン:
さあ?重桜の海は私達にとって秘境のようなもの。たどり着くだけでも骨が折れたわ
能代:
(こっちは約束通り結界の入り口で待っていましたが。となると、もしや……)
赤城:
あら、口が上手なこと…
お互い同盟相手、そこまで隠す必要なんてないと思いますわ?【どうやって】迷子になりましたか、ご教示いただけません?
プリンツ・オイゲン:
ふふ、赤城がそこまで言うのなら、隠し通せそうにないわね
本当は………………………
お腹減って死にそうだわ~
Z2:
オイゲンさんの言う通りです。こき使われて空腹で倒れる寸前です。はい
赤城:
ちっ…………
客人の方にお腹を空かせたままでは重桜の立つ瀬がありません。能代、島まで案内していただけないかしら?
ええ、祭儀の見どころはまだこれからですわ……
「己を貫く」――と大先輩が言っていた
私が信じていた、重桜と仲間たちを率いている、あの赤城先輩と加賀先輩が
まさか、セイレーンと結託しているだなんて……
あと「聖域」の件のあとも、頑張って調べていた
幸い、大先輩と長門様、陸奥様と江風が信用してくれた
あの海域で出会った暁と山城はどうやら無事だけど
みんな、あのときの出来事が記憶にないようで……
この祭儀で、何もわからないかもしれない
でも、それでも………
…………
――きっとなにかが、分かる気がする――
数日前、とある海域にて
この時代に存在し得ない施設の残骸と、いたる所に残っている斬撃の痕跡が、この場所と、この場所を襲撃した存在の正体を示している。
ここはセイレーンによって創造された「鏡面海域」――正確に言えば、「鏡面海域」だった場所だ。
???:
…うまく片付いた。拙者は次の場所に移動させてもらう
オブザーバー:
あら、久しぶりの客人ね。珍しいじゃない
???:
…………………
オブザーバー:
無視とは失礼ね
???:
……そなたらと交わす言葉など持ち合わせておらぬ
オブザーバー:
そう言わないでちょうだい。こっちはあなたと語り合いたくてしょうがないわ
あのコードGはともかく、「余燼(よじん)」…たしかそう名乗っていたわね?あなたたち全員こんな性格なの?
挨拶も断りもなく、いきなり人んちを荒らし回って……立て直すこっちの苦労も考えてほしいわ
あなたたちが姿を現してから、こっちの端末の消耗と作業プロセスのリソース使用率が3倍ちょっと増えたけど?
でもまさかとは思うけど、あなたはあのコードGによって私たちをかく乱するためだけに召喚されたのではなくて?
???:
……彼女の計画を探るためにわざわざ姿を見せたのか。そなたとは関係ない。消えろ
オブザーバー:
「関係ない」…ねえ?ここを廃墟にしておいて、その発言はないんじゃない?
でも大丈夫よ。どうせもう使わない場所だから、気が済むまでもっと破壊してくれて構わないわ
???:
…………………
オブザーバー:
コードGの座標なら把握しているわ
そして、あなたが彼女の代わりに「鏡面海域」を荒らし回っていることも
しかし、なぜ彼女は急に鳴りを潜めちゃったの?この世界の艦船たちを指揮する存在と出会ったのは、そんなに衝撃的?
???:
……言いたいのはそれだけか
オブザーバー:
さあ?でもこの海域での通信装置はこれで最後なの。あなたに切られる前に肝心なことも伝えられなかったら損だわ
だからあと一つだけ、大事なことを伝えようかしら
重桜のあの「祭儀」、そろそろ開催されるわよ
???:
………………!?
オブザーバー:
手に入れたのはカミの恵みか、それとも知られざる魔性の祟りか――気にならない?
???:
………
カミに頼り過ぎた過ちによって災禍(さいか)が引き起こされたのなら、それはこの世界の人類の自業自得だ
オブザーバー:
素直じゃないわね。あなた、知ってるはずよ?
人類が【ワタツミ】と名付けた存在の正体を
あーあ、それと、この世界の赤城、どうやらあの石ころに興味があるらしいわよ?
……通信が切断された。
???:
待て!
…………
また、回り道をしないといかぬというのか…!
祭儀の島
祭儀の前夜に、大きな宴会が開かれた。
祭儀の島は元々各種の儀式を開催するための施設を完備しているだけあって、
開かれた宴会の格式も本島から離れた離島ではあるものの、ロイヤルやサディアの最高級の宴会とも比肩するものだ
もっとも、贅を尽くした宴会と違い、この宴会の趣旨はあくまで祭儀の前座であり、いわばカミに供物を捧げる、奉納の祭典であって、
各所から駆けつけてきた一般参加者のための歓迎会と、便宜上合体させたものにしか過ぎない。
それゆえにワイワイと盛り上がるのではなく、むしろ来るべく大儀式に向けて、激励と労いの言葉を掛け合う参加者のほうが圧倒的に多い。
――和気藹々でありながらも、皆が空気を読んで遠慮していそうな……
そんな重桜の祭儀らしく、どこか謹んでいるような雰囲気である。
………………
宴会会場
赤城:
龍鳳、能代、駿河、此度の祭儀の開催準備、ご苦労さま
龍鳳:
重桜の武家として当然なことをしたまでです。褒めていただくほどのことではありません
能代:
ええ、むしろ祭儀の準備を無事行えたのは、ひとえに赤城さんが上層部に根回ししてくださったおかげです
駿河:
そんな赤城さんが自ら祭儀に参加するなんて、準備に関わっている身として誠に光栄に思います
赤城:
まあ、みんな世辞がうまいですこと
あら、これは三笠様ではありませんか。相変わらず元気なご様子で安心しました
三笠:
はは、こっちこそ、昔のお主のことを思い出すと……
いや、すまない。つい年寄りの冷や水をかけてしまった
重桜の仲間たちを率いて、民を安んずるお主の手腕、見事である
赤城:
恐れ入ります。赤城はあくまでカミのご意志に従うまで
三笠:
そうだな。鉄血とレッドアクシズを立ち上げ、セイレーン技術を研究し、ユニオンとロイヤルと相争うのも――
赤城:
ええ、大先輩が勝手に作った「新生連合艦隊」とやらをいつまでも見逃すことも、カミのご意志に従ってのこと
赤城は盃で己の口を隠し、低い声で三笠に問い質した。
赤城:
とっくに引退した大先輩が今更表に出てきたのは、一体どういう風の吹き回しですか?
三笠:
「新生連合艦隊」か。あれはただの道楽だ。お主が気にすることはない
「表に出てきた」とはまた異なことだな。重桜の一員である我が祭儀に参加するのは、別におかしなことではないが?
重桜の未来を案じて、己の全霊を捧げても辞さない想いはお主と一緒のはずだ。違うか?
赤城:
そうですわね。ところで、長門様は此度の祭儀には参加されないとお伺いしております
噂では、長門様はすでに目覚めており、今は三笠様の「新生連合艦隊」に保護されているとのことですが……?
カシャン!!
赤城:
何事!
会場の隅っこに隠れていた瑞鶴が盃を落とした。
翔鶴:
申し訳ございません赤城さん、うちの瑞鶴が手を滑らせてしまいまして…
もう瑞鶴ったら、三笠様と赤城さんの前でなんて失礼なことを!あ、すぐ出ていきますので、皆様は引き続き宴会をお楽しみくださいませ♪
瑞鶴はお辞儀をして、無言のまま会場から出ていった。
三笠:
お恥ずかしいところを見せてしまったな。これはすまなかった。鉄血の方々には我が瑞鶴の代わりに謝罪しよう
しかし、まさか鉄血の皆まで祭儀に参加するとは思わなかったな…
重桜の食事はお口に合わぬか?
プリンツ・オイゲン:
結構いい感じよ。特にこの「重桜酒」、独特な味がするわね
三笠:
うむ。これは米と米麹、そして水を重桜独自の作り方で作っておるぞ
祭儀においては、カミに捧げる供物としても使われておるのだ
プリンツ・オイゲン:
ライスね…なら麦で出来たビールとは味が違うのも納得よ。
今度エウロパ大陸に来訪される際はぜひ鉄血のシュヴァルツビールをご賞味いただきたいわ
三笠:
おお、エウロパ大陸とは随分と懐かしい場所ではないか
ロイヤルで仲間たちとともにパーティーを嗜んだ頃を思い出すな、ははは
プリンツ・オイゲン:
まあ、ロイヤルの連中の話は置いといて。ここは我ら鉄血も客らしく重桜のグルメを楽しませてもらうわ
Z2:
オイゲンさん、刺身を持ってきました。食べてみませんか?
オイゲンの補佐を担当するZ2こと、ゲオルク・ティーレは皿をテーブルに載せた。
三笠:
むっ、これは……
Z2:
これと一緒に食べるって聞きましたので。ええ、この「わさび」というのを――
この魚の白身に満遍なく、緑になるまで塗らせていただきました
三笠:
いや、さすがにこれは多すぎるぞ
プリンツ・オイゲン:
そう?私たち、食べ方はよくわからないわ
駿河:
そこは私が教えますので!というかティーレさん、話を聞いてください!
プリンツ・オイゲン:
(この子…噂の紀伊型戦艦の「駿河」ね。ジタバタしてて可愛いじゃない。ふふふ)
Z2:
オイゲンさん、この串焼きも美味しいと聞きました。ええ、みんなで食べましょう
駿河にどこかに引っ張られたZ2だが、あっという間に脱出して新たな食べ物を持ってきた。
赤城:
皆様、引き続き宴会をお楽しみくださいませ
祭儀の島・宴会会場
慎みながらもみんなが宴会を楽しんでいる最中に――
駿河:
さ、さすがは三笠大先輩ですね…そんな逆境でも逆転できるなんて…
三笠:
ははは、我ながらよく生き残れたなと思った!それと北方連合のアヴローラときたら――
ド―――――ン!!!
宴会会場の外から猛烈な砲撃音が伝わってきた。
水平線の向こうが赤と紫の光に染まり、漆黒の影がかすかに海から浮かび上がったのが見える
龍鳳:
あれは……セイレーン!
響:
は、はい!こっちの警戒距離からギリギリ離れたところにいきなり現れた!
鬼怒と霞がほかの警戒担当の艦船を連れて迎撃に行ったよ!
宴会の会場は一瞬で静まり返り、そして戦いに挑む直前の緊張感と熱気に包まれた。
駿河:
(祭儀の島は確か「結界」に守られているはず…セイレーン艦隊はどうやってやってきたの!?)
龍鳳:
皆さん、安心してください!この祭儀の島の守備は万全です!
何があっても私たち主催側が対応します!
駿河、能代、出撃よ
貅&駿河:
はい!
龍鳳:
この龍鳳がいる以上、会場の皆様の手はわずらわせません!
能代:
はああ―――!!
駿河、大丈夫?セイレーンとの実戦は初めてでしょ?
駿河:
(模擬戦や演習なら何回もやったけど、本物の迫力はやっぱり全然違う――!!)
龍鳳:
くっ…!キリがありません!次から次へと現れて…!
駿河:
(まさか初めての実戦からピンチだなんて!!祭儀の主催なんてやらなきゃよかった!)
龍鳳:
重桜の本島は永くセイレーンの襲撃がなかったから、あまり実感はありませんけど…
やっぱりセイレーンは脅威です…!
みんな!ここは気を引き締めて全力で戦いましょう!
龍鳳:
霞!鬼怒!よく持ちこたえました!早く合流を……
駿河:
龍鳳、危ない!
蕸?:
……
猤?:
……
能代:
あなたたち、何を……!?
龍鳳:
なんだかあの二人いつもの雰囲気とは違う……
駿河:
こいつらは味方じゃない!セイレーンが私たちのデータに基づいて作った「駒」よ!
龍鳳:
くっ!ふざけた真似を…!
みんな、敵の外見に惑わされないで!私たちの役割通り――祭儀の島を守りますよ!
能代:
出来の悪いガラクタ…消えなさい!
龍鳳:
この海域を掃除できました!早く、次の海域に増援に行きましょう
能代:
龍鳳、セイレーンの狙いをどう思います?もし【ワタツミ】なら…
龍鳳:
一航戦と五航戦、それと三笠大先輩たちも祭儀の島にいます。仮にセイレーンが搦手から強襲をしかけても返り討ちです
能代:
そうなっては、そこまで敵を通した私たちの責任問題になりますが。……あれは!!
龍鳳:
空が…紫色になっていく…!?
能代:
ええ、それだけではないようですね。計器が狂い始めています
駿河:
これは一体……
鬼怒:
「鏡面海域」だ。いま島の向こうからやってきたが、どうやら島周辺海域全域が鏡面海域になっているようだ
龍鳳:
鬼怒!霞!二人共無事でしたか?
猤:
はい、龍鳳の直掩機を目印に急いで駆けつけてきた。向こうの量産型は全部撃破した
この海域らしからぬ天気の異変、外部との通信断絶…記録と同じ現象…ね
一つだけ違う。鏡面海域は通常「海」の上でだけ発生するが、今回のようにまるで島を覆っているようなケースはどの記録にもないぞ
これぐらいのセイレーンを撃退しただけじゃ鏡面海域が消えたりはしない。龍鳳、これからどうする?
龍鳳:
指示を出すまでもありません。あっちからもう第二波が来ているようですね
貅:
出現したのは暗礁の多い海域…あの大きさで暗礁を通れるわけないはずなのに、一体どうやって…?
龍鳳:
霞、駿河、ちょっと様子を見に行きますわよ。みんなはこのまま防衛線を構築して!
みんな:
はい!
闇に包まれた海の上で、二人の少女が疾走る。
長門:
江風!
セイレーン戦艦による一斉射が江風を夾叉(きょうさ)した。
江風:
…神子さまお下がりください!ここは江風が!
長門:
何を言っておる!お主はもうボロボロではないか!
江風:
先導役を引き受けたにも関わらずセイレーンの罠に陥ってしまい、神子さまを危険な目に遭わせてしまった責任……
この江風、死戦を持って自分の罪を償ってみせます!
砲撃一閃。一度夾叉した砲撃は今度は外れることなく――
江風ではなく、長門が召喚した量産型の戦艦に着弾した。
江風:
神子さま、私などのために御身の力を使うわけには……
長門:
何をほざいておる!
江風:
神子さま!?
長門:
余は長門!重桜の戦艦・長門である!
大切な仲間一人も守れぬなら、如何に重桜を守ると言うか!
江風:
神子、さま……
敵を仕留め損ねて、動きを一瞬止めた量産型セイレーンに対して、長門は己の主砲を放った
長門:
ビッグセブンの力を見るが良い!
―――――!!
強力な主砲による斉射――それも重桜を守りし神子のものとなると、敵を撃破するのには十分すぎる威力を有していた。
あたりは一瞬にして火の海と化し、セイレーンによる包囲も綻びを見せていた。
江風:
神子さま、こちらに!
長門:
江風!!
長門は手を伸ばし、傷ついた江風を半ば曳航する形で脱出を急ぐ。
……が、増援に現れたセイレーンの主砲がその前に二人を再び捉えてしまった。
江風:
神子さま、自分のことはいいです!放っといてください!
そんな江風の嘆願を無視し、長門は必死に巨大な艤装を駆使し、セイレーンの砲撃を回避しながら追撃をかわそうとする。
一方、セイレーンは数の暴力を活かし、長門の行き先を塞ぎ、砲撃で進路を変えさせ、ゆっくりと包囲網を縮めていく。
江風:
…………っ!
二人の前に、まさに危機が立ちはだかっていた。
江風:
私が犠牲になってでも、神子さまだけは……!
——
爆撃機による急降下爆撃で、進路を妨げていたセイレーンは鉄くずへと化した。
瑞鹤:
その心意気はいいけど、本当にやっちゃダメよ!
江風を失ったら長門様、きっと悲しむからね――!
瑞鶴の放った爆撃機は二人を危機から救った。
江風:
瑞鶴さん、っ…感謝する…
感謝の言葉を述べると、江風は瑞鶴の胸に倒れ込んでしまった。
長門:
江風!
瑞鹤:
大丈夫よ。必死に張り詰めていた緊張の糸が切れただけよ
ちょっと休んでていいよ。長門様は私たちが守るから
長門:
またお主に助けられたな…大儀であるぞ。瑞鶴
瑞鹤:
あー、本当はたまたま偶然通り過ぎただけだけどね
長門:
そ、そうなのか?
瑞鹤:
ええ、元々宴会の席から抜け出しただけなのに、急にセイレーンが現れて、そうして敵を倒してたところよ
江風:
神子様……
セイレーンがこの海域に現れたのはきっと【ワタツミ】を狙っているに違いありません
わざわざそんな危険な場所に行かなくても……
長門:
ならぬ。もとよりこの祭儀は我が執り行うべきものだ。
それに、もしセイレーンが【ワタツミ】に手を出すなら、絶対に思い通りにさせてはならぬ
瑞鶴、江風を任せても良いか?彼女には休息が必要だ
瑞鹤:
もちろん!長門様、祭儀の島で三笠様が待っているよ!
駿河:
瑞鶴さん!?ここは危険です!早く島に……あれ?
龍鳳:
な、長門様!?
長門を見た祭儀の主催担当たちは驚きながらも一礼をした。
霞:
神子さま……霞、初めて見た……
龍鳳:
そのお姿…セイレーンから神子さまをお守りできず、誠に申し訳ございません…!
神子さまが参加されるとは知らず、護衛の用意をできなかったこと、何卒ご容赦のほどを……
長門:
良い。余のワガママを江風に強引に付き合ってもらっただけだ。お主らのせいではない
駿河:
長門様がご参加されるのは良かったです!万が一のことを考えるとどうしようかと思いました……
長門:
え?お主ら、どうする気だったのだ…?
駿河:
はい、信濃さんがもし儀式を執り行えない場合は、山城さんを代役にすると……
長門:
や、山城か……うむ……
江風、お主はもう大丈夫か?
江風:
はい、航行するだけなら、なんとか…
長門:
祭儀の島に急ぐぞ。
江風:
セイレーンの「駒」…こんなときに…!
龍鳳:
ここは私たちにお任せください。長門様は早く島へ
長門:
うむ、任せたぞ!
祭儀の島
赤城:
なるほど、長門様はご病体を押してまで祭儀に参加しようとして、迷子になられている、とおっしゃりたいのですか?
三笠様、お言葉ですが長門様が行きたいとおっしゃるのでしたら、一緒に来ればよかったでしょうに
三笠:
我も瑞鶴からついさっき連絡を受けたばかりだぞ。というか、長門様がご自身で来られたのだ、我らが止めるわけなかろう
………。…むしろ赤城はどこか面白くない様子に見受けるが?
赤城:
さあ、どういうことかしら?お酒を飲んで少し赤くなっているだけですわ
加賀:
…………
して、長門様が来られたからには、信濃に代わって儀式を執り行う役目など不要か
元々、万が一のときには山城にやらせようとしていたが…
山城:
ええええ!?
山城は大いに驚いた。
山城:
や、山城が儀式を執り行うのですか?!
赤城:
あくまで次善策です。儀式を執り行うといっても、祝詞をそのまま暗唱していただければ済むこと
なんなら今試しに一回やればいいのです。響、【ワタツミ】を仮式場に持ってきなさい
響:
は、はい!
響が会場から走り去った。
プリンツ・オイゲン:
ふーん、例の「宝器」とやらのご開帳かしら?聞けばそれ、カンレキの存在しない艦船をも作り出せるって?
鉄血の「Z計画」とやらもちゃっちゃとやってくれれば助かるわ
Z2:
オイゲンさん、酔っています?
プリンツ・オイゲン:
この程度どうってことないわ~あくまでものの例えよ
Z2:
すみません皆さん、今のオイゲンの発言、聞かなかったことにしてください
赤城:
ふふ、お互い盟友ですもの。むしろ私たちが力になれそうなご用はいつでも言ってくださって大丈夫ですわ
プリンツ・オイゲン:
あら、それならあの【ワタツミ】、私たち鉄血にも貸していただけるのかしら?あはははは~
三笠:
…………
翔鶴:
(小声)
三笠:
(小声)長門はまだか?
翔鶴:
(小声)瑞鶴の最初の連絡以来、鏡面海域のせいで情報が入ってきてませんね。いかがします?
三笠:
(小声)何も。赤城の腹の内は読めんが、【ワタツミ】をどうかするような真似はしないはず
響:
【ワタツミ】、仮式場に移動しました!
祭儀の要になる宝器が見れると聞いて、会場内が少し騒ぎ立ってきた。
Z2:
オイゲンさんが行くと都合が悪いから、下見は私に任せてください
そして、会場の参加者たちが続々と仮式場に移動していく中で――
Z2:
………………
オイゲンさん、大丈夫ですか?そろそろ私たちも移動の時間ですが
オイゲンさん?
…………
プリンツ・オイゲン:
ふぅ……はぁ……………
Z2:
本当に酔っていたのですか。全く、計画が破綻しますね
重桜酒…恐ろしいものです
???:
“裏から回るぞ!なんとしてもあれを止めるのだ!”
「それ」は、彼女の記憶の中では異形だった。
鋼鉄の軀(からだ)を持ちながら、思考も挙動も水棲動物そのもの――人類の英知とはかけ離れた存在だ。
???:
高雄さん!撤退しましょう!こっちはもう総崩れです!
もう少し持ちこたえろ!あと少しで味方の増援が来るぞ!
最強の攻性兵器となりうる「それ」は、人格と「思考」、「制御技術」さえなければ、ただ無差別に破壊をもたらす迷惑な存在だ
近代火器と自然の暴威を組み合わせた悪夢の前では、少女たちがなすすべもなく撃退されていった。
???:
あれは!?し、白い「壁」がああ!?
待て!
こ、これが……!
これが【ワタツミ】だというのか……!?
………………
「セイレーン」…………!
祭儀の島・仮式場
祭儀の島の仮式場で、重桜の宝器【ワタツミ】がその姿を現した。
神棚に置かれている「それ」の外見自体は別にこれといったものではなく――ネイビーブルーの色をした、ただの石だ
窓から差し込んだ月の光に照らされ、かすかに光っているようにも見える
そして……
響:
では、この場にいない龍鳳さんたちに代わって、赤城さんの命によりこの響が儀式の進行を務めさせて頂きまぁす
要はリハーサルだよ、リハーサル!ささ、山城さん、どうぞどうぞ!
山城:
わああ…これは宝器【ワタツミ】ですか?海のカミサマの力を宿す神聖な石!うーん、石にしか見えませんね…
じゃ、【ワタツミ】の儀式、よく見ていてくださいね!えっと……
みんな:
「おほわだつみ こわだつみ いついろの にぎてを いつかたに とりはへて」
「かむはらひに はらひたまひて きよきむねを さとりて はやきこしめし」
「やをよろづのかみたち もろともに きこしめせと まをす」
――――!
山城が【ワタツミ】に触ろうとした途端、まるで反動でも受けたかのように軽く弾き飛ばされた
響:
あ、あれ?
長門:
今すぐ儀式を止めろ!決して【ワタツミ】に触るな!
長門と瑞鶴が仮式場に駆け込んだ。
三笠:
長門!お主無事だったか!
赤城:
………………っ
長門:
あれは艦船以外のものを阻む防御結界!ここに間者がおるぞ!
長門の警告を受けて、会場にいる艦船たちは一斉に身構えた。
山城:
え、ええええ!?
まるで視界が歪んだような様子とともに、重桜でも鉄血でもない「彼女」が山城の後ろに突然姿を現した。
オブザーバー:
この光学迷彩の性能には結構自信があったのに、まさか見破られるなんてね~
みんな:
セイレーン!!
瑞鹤:
偽装(クローク)で紛れ込んだのか!卑怯な!
オブザーバー:
あら、暗礁海域ではやられなかったのね?
残念ね…あの「余燼」の子の相手さえしていなければ、あなたたちがここにたどり着くことなんてないのに
長門:
お主、我が重桜の【ワタツミ】に何をする気だ!
オブザーバー:
ふふふ、そうね……
江風:
長門様、危ない―――!
オブザーバーが触手を動かす前に、一発の砲弾が仮式場の屋根に着弾した。
コンクリートと木で作られた屋根は砲弾の威力に耐えることなく脆く崩れ去り、式場を半露天にした。
ただ、幸いなことに、誰も瓦礫の下敷きにはならなかった。
オブザーバー:
やっぱり来たじゃない、「余燼」。ふふふ、あとで同郷とゆるりと語り合おうかしら
オブザーバーは式場の入り口に向かって楽しげに言葉を発すると、まるで月の光に溶けたかのように姿を消した。
三笠:
相変わらず神出鬼没だ…ほかにセイレーンはいないな?!
慌てながらも会場にいる艦船たちは速やかに周りを警戒し始めた。
霞:
三笠様、ごめんなさい。今、よくわからない艦船が霞たちの防衛線を抜けた……
ごめんなさい……霞たち、止められなかった……
三笠:
構わん。お主らは引き続き島の周辺を警戒せよ。上位個体ならともかく、量産型のセイレーンはここまで深く入らせん
(攻撃してきたのは、もしやあのセイレーンが言ってた「余燼」なる者か……?)
響:
あ、あの!響たちはどうすれば…!
瑞鹤:
みんなはここで長門様と【ワタツミ】を守って!攻撃してくる敵は私と翔鶴姉がなんとかする!
三笠:
ああ、頼んだぞ!
瑞鹤:
あんたがセイレーンの言ってた「余燼」か!よくも仮式場を破壊してくれたわね!
…その刀を見るに、私たちと同じ重桜の者ね!早く姿を見せなさい!
???:
……………
謎の艦船は無言のまま、五航戦姉妹に振り向いた。
瑞鹤:
!?あなたは…!
翔鶴:
高雄と同じ顔をした「駒」ってこと?
いいえ違うわ…あなたはさっき、砲撃でオブザーバーの行動を止めた
瑞鹤:
艤装を装備しているってことは艦船だな!あなたは一体何者だ!目的は?どうして私たちを襲う?!
何とか言え!どうしても言わないのなら……
この五航戦・空母瑞鶴が力ずくで言わせてやる!
???:
拙者が誰かは重要ではない。それと、目的は2つだ
ひとつはお前たちの見た通り、オブザーバーにあの石を奪わせないことだ。もう一つは……
翔鶴:
(声まで高雄と同じ…?)
瑞鹤:
もう一つは?
???:
そう…あの忌々しい…
――【ワタツミ】を破壊することだ
……
瑞鹤:
くっ……!
……
鏡面海域で、黒と白の影たちが轟音とともに舞っていた。
瑞鹤:
…艦載機を物ともせず、ひたすら接近戦を仕掛けくる…!しかも翔鶴姉と二人がかりでも斬撃を逸らすのが精一杯…!
この人、恐ろしく強い…!!
???:
拙者はそなたたちと争うつもりはない。だが……
そなたたち艦船が【ワタツミ】破壊の邪魔立てをするというのなら――
拙者の太刀筋、とくと見るが良い!
翔鶴:
瑞鶴!!
……
瑞鹤:
翔鶴姉!!
???:
己の艤装がもたらした異能に頼りすぎては身を滅ぼす、覚えておけ
翔鶴:
瑞鶴、大丈夫よ…袖と艤装が斬られただけ……っ
あなた高雄よね!なぜ重桜の宝器を破壊しようとするの!なぜこうなってしまったの!
「高雄」と呼ばれたとき、次の斬撃を繰り出そうとしていた「余燼」は動きを止めた。
???:
…………その名前、いいや、コードネームか。久しく呼ばれていないな
…それにしても「高雄」か。
我らのリュウコツに刻印された、人の勝手な想いに過ぎぬ
その人たちすら消えて失くなったというのなら――
名前など――
無意味だッ!!
!!
瑞鹤:
くっ、かは…!グレイゴーストよりも、強い…ッ!
!!
???:
…新手か
鬼怒:
あての仲間を傷つけるな!
瑞鶴:
みんな、気をつけて!普通の相手じゃないよ!!
龍鳳:
はい!だからこそみんなで戦うのですよ!航空支援はこちらに任せて!
駿河:
勝つ手段を選んでる場合じゃないわ!瑞鶴さん!
霞:
霞も…ふわりんと一緒に頑張ります…!
瑞鶴:
ここまで人数が増えるとちょっと卑怯な気がするけど…
【ワタツミ】を守るためなら仕方ないよね…!
???:
中々やる…!くっ、そろそろ時間か……
艦船たちの猛攻で、「高雄」は祭儀の島に近づけられずにいた。
瑞鹤:
ここは通さないよ!!
???:
通らせてもらう――!
進路を変え、一直線で【ワタツミ】へと向かおうとする高雄に、瑞鶴が真正面に飛び出した。
まるで時間が止まったかのように、二人の視線が一瞬合うと――
……次の瞬間、そこには止まったままの瑞鶴と、全速力で前進する「高雄」の姿があった。
翔鶴:
瑞鶴!大丈夫!?
瑞鹤:
い、今のは…!?
(気圧されたのではない、確かに私は手を出そうとした…)
(でも違う…あの目を見た瞬間に、まったく動けなかった…)
…………
(私は……この人が…怖いの…!?)
祭儀の島・仮式場
響:
うわぁ…仮式場がこんなにボロボロに…これは【ワタツミ】を運び出すのも一苦労だね…
長門:
うむ。最悪の場合、このまま儀式を進めるのもやむなし、か
響:
長門様、ちょっと待ってて、今儀式用の道具を掘り出すよ!…ほい!
江風:
お、お主、駆逐艦なのに中々の膂力ではないか
響:
えへへ、まあ普段こういうお祭りに参加するのが大好きだから、こういうアイテムを探すのも運ぶのもお手の物よ!…んしょっと
赤城:
三笠様、なにか気になることでも?
三笠:
うむ、この祭儀のことだ。うまく言えんが…
なにか引っかかっていてな
赤城:
あら、あの三笠様を悩ませるほどの違和感でもあるというのですか?
私には特に何とも思いませんわ。この【ワタツミ】を用いる祭儀、最初からただのお祭りであり――
三笠:
ああ、我もそう思っておる。カミの力ばかりに頼っていてもろくなことが起きんでな。我らは自らの力で変革を起こさねばならぬ
赤城:
ふふ、三笠大先輩ならきっと話を分かってくれると信じていました
この際、私も正直になりましょう。私が主導的にセイレーン技術を取り入れるのは、全ては重桜の未来のためです
カミの力…いいえ、カミの力「だけ」に頼ろうとする古き時代と決別して、重桜に輝かしい未来を見出すこと
それこそが私の夢であり、そして「あの人」が望んでいる未来ですわ
三笠:
だがな赤城。セイレーン技術がもしそこまで万能な存在なら、我とてお主に賛同したであろう
お主のやってきたことは、どうもセイレーンを利用するというよりは、セイレーンに利用されているように見える
…セイレーンの力は危険だ。簡単に制御できると自惚れては己の身を滅ぼす
今のお主の進む道は歪んでいる。このままでは重桜の仲間たちまでも傷つけるのではないかと、我は危惧しておるのだ
お主が想う「あの人」もきっとそのような結末を見たくはなかろう
赤城:
三笠様、恐れ入りますがこの赤城、申し上げます
重桜にとっての正しい道は一体なんです?
アズールレーンを脱退せず、セイレーンを根絶せず、偽りの平和を、仲良しごっこを永遠に続けるおつもりですか?
人が争いを望んでいる以上、私たちが前に進まなければ、時代に置き去りにされ、いつか枷をかけられるだけです
今までの犠牲を、三笠様がやむを得ないと仰るのですか?
響:
わわわわ!
!!
祭儀の準備をしていた響がいいタイミングで盛大に――転びそうになった。
響:
ごめんなさい!また転びそうになっちゃった><
あ、長門様、【ワタツミ】の儀式のリハーサル準備できたよ!
長門:
響に案内され、重桜の神子・長門と護衛の江風が式場の中心に移動した。
お主たちは重桜のためを考えている、そんなことは余が一番知っている。だから、せめてこの祭儀の間は、お互い平和に過ごしてくれ
余はともかく、重桜の仲間だけでなく、カミも喜ぶ
赤城:
………………
長門:
【ワタツミ】に向けて、長門は丁重に重桜の祈りを捧げた。
「おほわだつみ こわだつみ いついろの にぎてを いつかたに とりはへて」
「かむはらひに はらひたまひて きよきむねを さとりて はやきこしめし」
「やをよろづのかみたち もろともに きこしめせと まをす」
……何も起こらなかった。
長門:
……やはりそうか。カミのお言葉など、そう簡単に頂けるものではないようだ
龍鳳:
三笠様!さっきの「余燼」と呼ばれた敵はこっちの追撃を振り払って、今そちらに――
三笠:
なっ!?
——
「余燼」と呼ばれた艦船が式場の入り口に突然現れ、式場にいる艦船たちは思わず面食らった。
――ただ二人、赤城と加賀を除いて。
三笠:
お主……高雄!?
???:
長門様、お引きを。拙者の刀、重桜の民を傷つけるためではござらぬ
「高雄」に怯むことなく、長門は【ワタツミ】の前に立ち、身を挺して【ワタツミ】を守ろうとする気概を見せた。
長門:
お主の正体と、【ワタツミ】を破壊しようとする目的を教えぬ限り、お主の思い通りにはさせんぞ
???:
……【ワタツミ】は宝器ではありませぬ。災いをもたらす存在だ
思いを集め、実体化し、いずれそなたたちに大いなる災禍をもたらすだろう
長門:
重桜の祭儀の歴史は余が誕生する前よりも永く続いておる。お主の一言だけで断じることはできぬ
???:
その歴史は偽りだ。この石はそなたたちの世界に存在するものではない
長門:
……なん、だと…?
???:
……参る!
目にも留まらぬ神速の斬撃が長門に向けて放たれた。
江風:
神子さま!
直感で間一髪のところで自分の獲物を抜いた江風が、力を振り絞って刀の軌道をそらそうとする。
!!
……………………
電光石火。式場のほかの誰一人として動けなかった間に、それは成された。
赤城:
……………
江風:
神子さま、ご無事ですか?
長門:
余は大丈夫だ
長門の後ろにあった【ワタツミ】は神業の一刀によって綺麗に両断された。
長門:
【ワタツミ】が……!
???:
……これは一本やられたな。本物の【ワタツミ】は、とっくに隠されていたというのか
ただの石にセイレーン技術を使った発光塗装の加工、それに重桜の防衛用の小結界…
ふん、無駄足だったというわけか
数日後
プリンツ・オイゲン:
重桜のあの祭儀は結局失敗したの?
Z2:
致し方ありませんね。ええ
まさか祭儀に使われる【ワタツミ】が偽物だったなんて誰も予測できないでしょう。今、重桜側では大混乱です
もちろん私もことの顛末を見損ねました。酔っ払ったオイゲンの介抱で
このままでは手ぶらで帰るようなものです。ええ、任務失敗です。もちろん「彼女」に責められますでしょう
プリンツ・オイゲン:
ティーレ、私は別に酔っ払ってなかったわよ?あれはただの演技
Z2:
レーベくん以上にぐっすりと寝ていたように見えましたね。いい演技でした、はい
プリンツ・オイゲン:
………この話、誰にも話すんじゃないわ
Z2:
わかりました。ええ、誰にも話しません
重桜酒をお土産に大量購入したオイゲンにZ2は内心困っていた。
プリンツ・オイゲン:
それと手ぶらなんかじゃないわ。「新生連合艦隊」の正体、重桜の内部事情、それと新鋭艦の情報を手に入れたの
これぐらいの情報があれば祭儀のことなんてどうだっていいじゃない。「例の作戦」のことも重桜に伝えたし
あとは計画通り、あの赤城との交渉をうまくまとめられるかどうか…
赤城:
プリンツ・オイゲン、少しお時間をいただけないかしら
プリンツ・オイゲン:
これはこれは重桜の赤城様?見送りなら、先程港でもう済ませたのではなくて?
赤城:
ええ、これからはあまり人に聞かれたくない話ですわ
単刀直入に言います。鉄血が握っている艦船とセイレーンの情報をもうちょっといただけないかしら?
プリンツ・オイゲン:
これは大きく出たわね…いくら鉄血と重桜が盟友でも、そのようなリクエストにはいどうぞ、というわけにはいかないけど?
でも、どうしようかな…こちらの情報のために、重桜はどんな対価を払うつもり?
赤城:
では、あの祭儀でそちらが出してきた依頼に応えるとしましょう
――【ワタツミ】、少し調べたくないかしら?
数日後・祭儀の島
祭儀が終わり、セイレーンとの戦いに参加した者らによる懇親会が開かれ――
三笠も強引に(?)長門を連れて参加した。
龍鳳:
三笠様!わざわざお越しいただき誠にありがとうございます!
三笠:
うむ。我もあの「余燼」とやらと対面したぞ!ははは!
しかし、セイレーン以上の強敵が現れたとなると、流石に今まで以上に奮励努力せねばならんな
……
——!!
江風:
あの「高雄」、艤装を使わずともあんなに強いのか…
瑞鹤:
ああ、翔鶴姉と一緒に戦っても足止めすら出来なかったし、私ひとりでは多分戦いにすらならないよね
……グレイゴーストといい、ブルーゴーストといい、やっぱり強いやつはどこにもいるってことね!あははは!
翔鶴:
瑞鶴~料理ができたわよ~みんなも食べましょうね~
天ぷらや重桜饅頭などの料理が出され、会場の雰囲気が一気に盛り上がった。
瑞鹤:
(小声)翔鶴姉、この間はごめん!私、まだまだ実力不足で……
翔鶴:
「余燼」に斬られたことについて瑞鶴が謝罪した。
別に瑞鶴のせいじゃないわよ。あんなに強い相手なら誰でも無理だもの。むしろ生きていることに感謝しないとね
それに、私なんて瑞鶴の被害担当艦みたいなものだし
瑞鹤:
翔鶴姉…………
翔鶴:
ふふ、お姉ちゃん、妹が素直に頑張っているのを見れるだけで満足よ
だから、お姉ちゃんのためにも元気に生き続けるのよ、瑞鶴♪
瑞鹤:
翔鶴姉、それフラグだからやめて!
一方、会場の隅に座っている二人がいた。
江風:
神子さま、此度は申し訳ございません
危険な目に遭わせてしまっただけでなく、肝心な時にお守りすることができず……
この江風、神子さまの護衛としては失格でございます…!
そう言いながら、江風は頭を下げて深く詫びた。
長門:
失格などではない
江風:
……
長門:
お主が護衛失格なら、かのロイヤルとアイリスの騎士団など全部そうなるのではないか?
江風:
神子、さま……
長門:
つまるところ、お主以上の護衛役などどこにもおらぬ!
よって、引き続き余の護衛として精進せよ!
江風:
……はい!
正直激励にも、慰めにも聞こえない言葉だが、江風にとっては彼女の仕える相手からいただけた最大級の賛辞である。
江風:
神子さまのご期待に添えるようがんばります!
長門:
……うむ、それで良い
龍鳳:
これで、一段落ですね
三笠:
そうだな。短い間に色々あった……
ふむ、思えば大昔にセイレーンと戦ってた頃もこんな感じだったのかもな?
……いや、感傷に浸る雰囲気ではないか
龍鳳:
でも、【ワタツミ】がないとなると、祭儀を開催できなくなりますね…
私にはわかりません。これほど大事なものを一体誰がいつ、どうやってすり替えたのでしょうか
三笠:
長門によると、あの石は重桜出身の者しか触れられぬ。となると、仮式場までに石を触れる権限のあった者全員が疑わしいな
むぅ、我もそうだが、赤城と加賀も石をすり替えることができる
…………難しいな。これは
龍鳳:
赤城さんと、加賀さんも……!?
三笠:
そうだ。でも我がそれを言い出すとキリがない。新生連合艦隊の一件以来、神経質になっているようだ。龍鳳もなにか分かったことがあるのか?
龍鳳:
確かに、鉄血の方を見送ってから、赤城さんと加賀さんが真っ先に祭儀の島から離れましたが、これといったことは…
響は…まあ、どう考えてもそんなことするような子ではないので
三笠:
……………
霞:
あ、あの……
能代:
霞、どうしたの?
霞:
今更だけど、うん
信濃さん、起きたよ?
駿河:
うん、これで最後まで目立たないようにできたわね!
そういえば、なんで信濃さんを祭儀の主催にさせたわけ?いくら噂の超能力?があっても儀式に間に合わないでしょうに
長門様も、来ないと聞いてたのに結局来たし。もしやこれ、最初から祭儀がこういう展開になるのを誰かが想定していた?!
まあ、結局祭儀のことなんて私には蚊帳の外なんで!深いことを考えずちょっと休みをとってゆっくりしましょうか~ふぅ……